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日本行政が行う開発途上国・新興国での医療技術等の実用化研究事業

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2022.12.13

次世代検査

行政 / 自治体

2022年5月、厚生労働省は第4回 医療機器・ヘルスケア開発協議会で開発途上国・新興国での日本の医療機器・技術の進出を推進する実用化研究事業を発表した。
同事業では既に10件のプロジェクトが実施されている。開発途上国における医療機器のニーズは日本と異なるため、相手国の課題に合わせた医療機器の再設計が必要である。
本記事では開発途上国および新興国での事業内容や過去の事例について紹介する。

支援事業設立の背景

近年、海外では、医療機器メーカーにとって多くのビジネスチャンスに恵まれている。

特にアジアは、2017年から2020年の医療機器市場平均成長率が13%と、平均成長率6%である日本の2倍のスピードで成長する巨大マーケットだ。

しかし、2017年の世界大手医療機器会社の売上高では、日本企業の最高位は19位と遅れを取っている。

日本の医療機器メーカーの技術力は高いものの、現地のニーズにマッチせず、製品上市後に売上が伸びていないケースが多い。
ニーズを満たす技術的・資金的支援を行うことで、開発途上国・新興国の医療問題を解決し、日本企業の国際展開を促進することが海外展開支援事業設立の背景である。

出典:医療機器の海外展開について 厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/content/10807000/000786035.pdf

出典:医療機器の海外展開について 厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/content/10807000/000786035.pdf

例1. 疾病

東南アジアの主要4カ国では、狭心症、高血圧性心疾患をはじめとするNCD領域の改善ニーズが高い。
生活水準は改善したものの、先進国と比べ健康的な生活習慣に対する意識が低いことが問題視されている。
生活習慣病の治療だけにフォーカスせず、病気の発生を抑制する生活改善指導が求められる。

また、感染症に対する疾病対策も急務だ。
従来から問題となっているマラリアなどの東南アジア地域特有の感染症や「顧みられない熱帯感染症」に加え、抗菌耐性菌などの新たな問題が生じてきている。
感染症を早期発見し、適切に管理する医療機器の必要性が増している。

加えて、生活環境の整備レベルの低さから生まれる疾病への対応も高いニーズを誇る。
大気汚染に端を発する慢性気管支炎などの増加や、交通事故や労働・食品衛生上での傷病がその一例である。
社会システムの中で引き起こされた課題に対応する医療機器が求められている。

例2. 医療制度

東南アジア地域は、人や資材といった医療インフラが十分ではなく、医療格差が生じやすい。
特に遠隔地においては顕著で、同じ国の中であっても均質な医療を提供できていない。
不十分なインフラの中で求められているのは、効率的でコストの安い医療の提供である。

東南アジアの国によっては、ユニバーサルヘルスカレッジ【UHC】の導入が遅れている。
UHCとは、すべての人が適切な医療を、支払い可能な費用で受けられる状態を指す。
SDGsのターゲットのひとつとして設置されているが、インドネシア、ベトナムは導入できていない。
達成のために低コストの医療提供、維持管理できるシステムの構築が必要とされている。

また、近年の新型コロナウィルスのように、人類の脅威となるような疾病に対して脆弱な国が多い。
パンデミックへの危機管理体制を構築する、効果的なソリューションが求められている。

開発途上国・新興国等における医療技術等実用化研究事業の内容

同事業は、相手国のニーズに合わせた製品設計の重要性が指摘されていることを踏まえ、バイオデザイン(医療機器開発人材育成プログラムのこと)等のデザインアプローチを採用し、開発途上国・新興国等におけるニーズを十分に踏まえた医療機器・医療機器プログラム等の設計から薬事申請までを「開発途上国・新興国等における医療技術等実用化研究」として実施するものだ。

現地におけるニーズを十分に踏まえた医療機器等の開発や、日本の医療技術等の展開に資する エビデンスの構築を推進する事で、途上国・新興国等の公衆衛生上の課題の解決に貢献し、 日本の医療の国際展開に貢献することを目指している。

事業開発の流れは、まずバイオデザインワークショップにて現地でのデザインアプローチについて学び、対象国を選択する。その後ニーズを探索した上でコンセプトを作成して、開発戦略や事業化計画を立案する。そして、開発や改良、臨床評価を実施し承認申請が降りれば最終的に現地で上市することができる。

対象事業では、コンサルティングによる販売戦略、薬事申請にいたるまでの支援も受けられる。
さらに、令和4年度実績で初年度約11,500千円、2〜3年度約23,000千円程度の研究開発費の支援を受けられるため、費用を抑えつつ研究開発を実施できる。*1

ただ、相手国のニーズや価格水準に基づいた医療機器開発を既存の自社技術にとらわれず進める可能性があり、医薬品などの医療機器でないものについては支援の対象外となっている。

ニーズ探求フェーズでの実施内容

フェーズの活動内容は以下の通りである。

・バイオデザインワークショップ
・対象国領域選択
・ニーズ探索・絞り込み

まず、日本の臨床現場にてバイオデザインの講習を受ける。
バイオデザインとは、医療現場のニーズから問題解決のための開発を行い、イノベーションを目指すプログラムを指す。*2
バイデザインによる開発は、現場観察により発見した課題のうち、事業化できるニーズを特定するというアプローチを取る。
保有する技術により製品を作る形態を取る、一般の製品開発の形態とは違うのが特徴だ。*3

バイオデザインを学んだのちに、対象国に進出するメリットやリスクを洗い出し、進出の判断基準を明確にする。
次に、臨床現場において観察を行い、現場での課題を特定する。
特定された課題からニーズを読み取り、自社の事業戦略を考慮したニーズの優先順位付けを行う。

ニーズ探求フェーズのプロセスは、バイオデザインの思想に基づくことが特徴である。
一般の製品開発とは異なり、ニーズから製品開発を行うことが求められる。

ニーズを満たすための開発および上市フェーズでの実施内容

フェーズの活動内容は以下の通りである。

・コンセプト作成
・開発戦略・事業化計画立案
・臨床試験に向けて開発・改良
・承認申請
・現地上市

ニーズ探求フェーズにおいて対応するニーズが特定できたら、コンセプトに基づき試作品を制作する。
ニーズに応えられているかで評価し、技術的課題の特定・優先順位付けを行うなど、戦略的な事業化計画を立案する。

同時に、臨床試験実施のためのエビデンスの特定や、マーケティングの実施も忘れてはならない。
特に医療機器の適切な評価は、機器の性能に加え、使用者の手技に影響されることがある。加えて、長期性能の評価が難しく、評価の方法に関しては検討を重ねることになるだろう。*4

医療機器の改良を重ね、臨床研究を行ったあとで承認申請を行い上市する。
相手国保健省・相手国の保健省、規制当局、ビジネスパートナーと連携を取りながら進める必要がある。

このフェーズでは、支援事業者による技術的な支援およびマーケティング、薬事承認などの多面的なコンサルティングが受けられる。
海外での申請に慣れている企業は多くないが、苦手な分野においても的確な支援を受けられるため、上市が実現できる可能性が高い事業である。

支援事業によって上市した事例

当支援事業の活用により、上市に到達した実績も多く存在する。

バイオマーカーの簡易診断キット開発

途上国・新興国に頻発する重症化リスクの高い腎疾患を、尿検査によって鑑別することで早期治療できるようにしたシミックホールディングス株式会社の事例である。*5

ベトナムでは、急速に広がる生活習慣病への対策が急務であるが、医療インフラが十分ではないという課題を抱えていた。
すでにシミックホールディングス株式会社は尿による腎疾患診断の技術を持っていたが、ベトナム向けにカスタマイズするべく993人の尿を測定し、正常上限値を設定。
設定された基準から腎機能低下患者の解析を行うことで、脆弱な医療インフラでも実施できる尿検査によって腎疾患を鑑別することを目指したのである。

同時に、医師や検査技師などにキットの使用方法を教育し、適切に使用できることを確認した。
さらに製造効率化などにより、製造費の15%の削減にも成功し、さらに低コストでの提供が可能となったのである。

しかし、事業の範囲は腎疾患の早期治療だけに留まらなかった。
日本腎臓学会とベトナム国立栄養研究所が連携して食事指導プログラムを開発し、生活習慣からの疾患予防を目指すなど、予防の観点でも大きな貢献があった事業である。

支援事業の実績とこれから

平成29年度から令和3年度にかけて10件のプロジェクトを実施し、支援を受けて海外での販売開始や、薬事申請につながった例もある。
5件は令和5年までの薬事申請に向けて調整を進めている。*6

今後も医療機器メーカーに対する支援事業は継続される見込みであるため、当支援事業を活用した海外展開のチャンスは広がっている。
支援を受けるためには公募で採択を受ける必要があるが、多くの実績を残している支援事業であるため挑戦する価値があると言えるだろう。

支援事業の活用が新事業の足がかりになる可能性も

海外で医療機器を売り込むには、現地のニーズに合わせたカスタマイズが必須である。
海外展開に慣れていない企業にとってネックとなるニーズ把握に関しては、臨床現場からの知見吸収や現地視察によりクリア可能である。
また、本事業を通して資金や開発支援、専門家の多面的コンサルティングが受けられるため、関係各所と連携しながら現地上市までこぎつける可能性が高い。

海外展開を考えているけれども、なかなか一歩が踏み出せない方、事業拡大が期待できる支援事業を活用してはいかがだろうか。

*1 参考:発展途上国・新興国島における医療技術等実用化研究事業「令和4年度 二次公募」公募説明資料 日本医療研究開発機構 令和4年
https://www.amed.go.jp/content/000103134.pdf

*2 参考:ジャパンバイオデザイン 日本バイオデザイン学会
http://www.jamti.or.jp/biodesign/program/

*3 参考:バイオデザインの魅力とメリット 広島大学
https://trc-device.hiroshima-u.ac.jp/bio-melit/#:~:text=%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%81%AE%E6%8E%A2%E3%81%97%E6%96%B9%E3%81%AF,%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%82%92%E7%89%B9%E5%AE%9A%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8

*4 参考:医療機器治験の試験デザインの現状と課題 医薬品医療機器総合機構 2017年
https://www.pmda.go.jp/files/000221033.pdf

*5 参考:開発途上国・新興国のニーズに合わせた、日本発バイオマーカーの簡易診断キット開発 日本の研究.com
https://research-er.jp/projects/view/1007356

*6 参考:厚生労働省の取組 厚生労働省 令和4年
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/medical_equipment_healthcare/pdf/004_02_05.pdf

 

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