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高まる若年層の在宅医療ニーズーAYA世代の課題から紐解く

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2022.12.20

在宅医療 / 介護

2025年問題を受け、在宅医療の需要は高まると予想され、在宅療養を希望する患者も多い。一方、15歳以上40歳未満の若年成人を指すAYA(Adolescent and Young Adult)世代では介護サービスに相当する公的支援が充実しているとは言えず、在宅医療を受けることが難しい場合がある。今回は、在宅医療の現状とAYA世代の課題について述べる。

「2025年問題」と在宅医療

「2025年問題」とは

2025年問題とは戦後の第一次ベビーブーム(1947〜1949年)に生まれたいわゆる「団塊の世代」が75歳を迎える2025年に、日本がさらなる「超高齢社会」に突入することで起きるとされている問題の総称を指す。
内閣府が公表している「令和元年版高齢社会白書」には、以下の図が示されている。*1

出典:*1 内閣府 第1節 高齢化の状況
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/html/gaiyou/s1_1.html

上の図によると、2025年には75歳以上の後期高齢者人口が、2,180万人になると予測されている。
これに、65〜74歳の前期高齢者人口1,497万人を足すと3,600万人以上となり、日本の総人口1億2,254万人の約30%がいわゆる「高齢者」となる計算となる。

2025年問題は、医療・介護業界にも多大な影響を与えると予想される。
高齢者の増加により患者数も増加し、それに伴い医療費も必然的に増加すると考えられる。

一方、少子高齢化により労働人口は減り、徴収できる税金は減っていき、社会保障費を確保することは難しくなってくるだろう。
それに伴い、診療報酬の見直しも図られていくものと考えられる。

厚生労働省による「平成18年度医療制度改革関連資料、医療費適正化の総合的な推進資料」では、医療費の適正化のため、平均在院日数の短縮に向けた取り組みが取り上げられている。*2

出典:*2 厚生労働省 III 医療費適正化の総合的な推進
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/taikou04.html

この図からもわかるように、在宅医療の推進は医療費削減の観点からも推奨されている。

病床の稼働率という観点からは、急性期は大病院で入院し小康をえたら地域の診療所や通院、場合により訪問診療と機能分化が進められている。

出典:*2 厚生労働省 III 医療費適正化の総合的な推進
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/taikou04.html

また、2025年問題は医師などの医療者側の高齢化という側面もあり、今後、病院の統廃合、病院や診療所の閉院も加速するのではないかと予想される。

在宅医療を受ける人は増えている

実際に在宅医療を受けている患者の推移を下に示す。*3

出典:*3 令和2年(2020)患者調査(確定数)の概況 p7
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/20/dl/kanjya-01.pdf

年次推移をみると、在宅医療を受けた推計外来患者数は、令和2年では減少しているものの、平成20年からは増加傾向にある。

在宅医療を受ける患者の年齢の内訳は、令和3年の報告によると、0〜14歳で11.9%、15〜39歳で12.8%、40〜64歳で16.7%、65〜74歳で18.0%、そして75歳以上で40.5%となっている。*4
つまり、在宅医療を受けている患者の大半は、75歳以上の後期高齢者ということになる。
一方で、小児や成人についても一定数の患者が存在しており、その数は年々増加傾向にある。*5  

内閣府が公表した「24年度 高齢者の健康に関する意識調査」によると、高齢者の実に54.6%が、「自宅で最期を迎えたい」と思っていることがわかっている。
患者が最後まで、自分らしく自己の生を全うしたい、自宅で家族と生活がしたい、という考えの現れと考えられる。

新型コロナウイルス感染症の流行を機に在宅医療に取り組む医療機関も

そして、2019年から全世界での流行が始まった新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)は、日本でも未だに流行がおさまる兆しは乏しい。

第5波と言われるような時期頃から、患者数の増加により入院での新型コロナ治療には限界が訪れた。
そこで、自宅療養者が急増するとの予測から、社会的な要請に応え、地域の医療を支えるためにも新型コロナ診療に関わることが重要だと考える診療所が徐々に増えた。*7 

また、病床確保の問題から入院継続が困難となり、慢性疾患などの患者で在宅医療に切り替えざるをえなかった患者もいたのではないかと考えられる。

高まるAYA世代の在宅医療

以上で述べてきたように、医療費の観点や患者自身の希望から、在宅医療のニーズは今後も高まるだろうと考えられる。

一方で、AYA世代についての在宅医療を巡る環境は整備されているとは言い難い。
これから、その課題や、課題改善のための取り組みについて述べる。

AYA世代の在宅医療の課題

AYA世代にとって重要な疾患はがんであり、白血病、リンパ腫、脳腫瘍など小児がんで多いもの、乳がん、子宮頸がん、消化器がんなど成人で多いもの、甲状腺がん、骨軟部組織肉腫、精巣がんなどAYA世代に発生のピークがあるものなど多岐にわたる。*8

2000年4月の介護保険制度の開始後、2006年4月から特定疾病に「がん」が追加された。
これにより、40歳以上のがん患者は、本来65歳以上でないと利用できない公的介護保険サービスを受けながらの在宅療養が可能となった。

一方、医療費助成や、日常生活用具給付を利用可能な小児慢性特定疾病医療費助成制度の新規申請は18歳未満が対象となっている。

すなわち両者のはざまに位置する、AYA世代のがん患者の在宅療養を支援する制度は整っていない。
また、AYA世代のがん患者は全国に一定の割合で存在するが、頻度は少なく、医療機関も医療者も経験が少ないという現状がある。*9

AYA世代の介護サービス代は全額自己負担(10割負担)

在宅ケアは、医師による訪問診療と看護師による訪問看護、ヘルパーなどによる訪問介護などで成り立っている。
医療費や薬代は、通院時や入院時と同じように医療保険が適用される。医療保険の負担の割合は年齢によって決められており、AYA世代の医療費は、3割負担になる。

AYA世代も高齢者と同様に、疾患の進行により、自立した生活が困難となっていくことが多い。その際に、介護保険に相当するものがAYA世代のうち18歳以上には無いので、介護サービスについては全額負担となる。

また、体が思うように動かなくなってきた際には介護用のベッドや車椅子など、福祉用具のレンタルや購入も必要になるだろう。しかし、これらについても介護保険制度が適用にならないので全額自費負担となる。
レンタル料金は、ベッドで月約10000円ほど、車椅子は月約6000円ほどである。在宅医療が長期に渡ると、その負担も大きくなってくる。*10

このように、自己負担額が大きいため、AYA世代が在宅医療を望んでも行えないということも多いだろう。

AYA世代の在宅医療の公的支援サービスの実例

実際に、先進的な自治体の取り組みを紹介する。
全国47都道府県・20政令指定都市・772市における公表情報を調査したところ、AYA世代に対する“先進的”な独自の事業が実施されていたのは20自治体(19地域)だったという報告がある(2021年5月末日時点)。*11

出典:*11 AYA世代のがん患者が在宅で療養するために必要な支援とは(住谷智恵子) | | 記事一覧 | 医学界新聞
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2022/3488_02

中核的な支援内容は、介護保険サービスにも存在する「福祉用具貸与・購入」「訪問入浴」「訪問介護」であった。
また、「助成額」はサービス利用料の9割相当、「支給限度額」は5〜8万円/月とする自治体が大半だった。

※助成額は補助金とほぼ同等の意味合いであり、サービスを利用した際に国や地方自治体から支払われる額のことである。そして、「支給限度額」とは、実際に要した金額のうち、いくらまでが限度であるかということを示している。

今後の展望

在宅医療の増加(量から質へ)

基本的に、在宅医療は公的なサービスであり、診療内容によって価格は一定となっている。
医療ビジネスという観点からは、在宅医療の質を高め、多様なニーズに対応できるサービスの構築を行い、他との差別化を図ることが望ましい。
例えば、24時間対応可能、症状が重くなっても対応できる、といったことだが、そのためには訪問看護の質と量の充実が必須である。

現在、AYA世代の在宅医療の費用面の課題への対応として、国に対し低所得者への交通費や装具、療養宿泊費等の間接経費の助成対象範囲を拡大するように提言がなされている。*12
今後、現状で利用可能なサービスについての周知徹底とともに、例にあげたようにAYA世代への介護サービスの充実の拡充も求められる。

ICT化を用いた持続可能な在宅医療に向けて

在宅医療は、一個人の医療者だけでは限界がある。
そのため、行政はもちろん在宅医療サービス提供企業などとの様々な協力や連携が必要である。
在宅医療のニーズに応えるには、在宅の医療・介護を連携させるための情報通信(ICTシステム)の整備が求められる。
システムのネットワークは当然であるが、人同士の繋がりを支援するための、デジタル技術やコンピュータを利用した「ICTシステム」の整備が早急に必要となってくるだろう。

医療機関と行政、民間企業が提携したサービスとして、埼玉利根保険医療圏地域医療ネットワークシステム「とねっと」がある。*13 
「とねっと」は、利根保健医療圏(行田市、加須市、羽生市、久喜市、蓮田市、幸手市、白岡市、宮代町、杉戸町)内の地域の病院・診療所・画像診断施設・臨床検査施設・歯科医療機関及び調剤薬局を安全なネットワークで結び、患者さんの情報を共有するシステムでありある。これは、NECのネットワークシステム「ID-Link」を利用している。*14 
このような地域連携医療ネットワークをベースとし、イニシャルコストを抑え、人材の確保や賛同する医師の確保にコストを使用していくことが重要であると考えられる。

参考

*1 内閣府 第1節 高齢化の状況
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/html/gaiyou/s1_1.html

*2 厚生労働省 III 医療費適正化の総合的な推進
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/taikou04.html

*3 令和2年(2020)患者調査(確定数)の概況 p7
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/20/dl/kanjya-01.pdf

*4 令和3年(2021)患者調査(確定数)の概況 p8
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/sinryo/tyosa21/dl/ika.pdf

*5  在宅医療の現状 p7
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000129546.pdf

*6 「高齢者の健康に関する意識調査」結果(概要)p8
https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h24/sougou/gaiyo/pdf/kekka_1.pdf

*7 COVID-19第5波における在宅医療の課題
https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/7020

*8 AYA世代の病気を知る
https://e-cip.jp/aya_learning/

*9 AYA世代のがん対策に関する政策提言 p5
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000138588.pdf

*10 ダスキンヘルスレント
https://healthrent.duskin.jp/index.html?link=log

*11 AYA世代のがん患者が在宅で療養するために必要な支援とは(住谷智恵子) | | 記事一覧 | 医学界新聞
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2022/3488_02

*12 AYA世代のがん対策に関する政策提言 p12
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000138588.pdf

*13 埼玉利根保健医療圏地域医療ネットワークシステム「とねっと」 – 埼玉県
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0703/tonetto/tonetto.html

*14 医療情報連携ネットワーク支援Navi p3
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/000644817.pdf

 

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