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創薬ベンチャーの確立に注力か ー医療の視点でスタートアップ育成5か年計画を読み解く

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2023.01.31

創薬 / 治験治療

行政 / 自治体

2022年11月24日、岸田内閣は「スタートアップ育成5か年計画」を発表した。
2022年をスタートアップ創出元年とし、第二の創業ブームの実現に向けて日本にスタートアップを生み育てるエコシステムを創出する。
その中でも、医療・ヘルスケア業界においてどのような影響があるかまとめた。

スタートアップ育成5か年計画とは

岸田政権が「新しい資本主義」の実現に向けた取り組みとして、戦後の創業期に次ぐ第二の創業ブームを実現するために計画したものが「スタートアップ育成5か年計画」である。

なぜ今、スタートアップ育成なのか。それは、スタートアップが社会的課題を成長のエンジンに転換して、持続可能な経済社会を実現する、まさに「新しい資本主義」の考え方を体現するものであるからだ。
現在、日本の開業率やユニコーン企業数は、米国や欧州と比較して低い水準で推移している。
一方で、欧米を中心に、既存大企業がスタートアップの買収などで新技術を導入するイノベーションを行った場合、持続的に成長可能となることが分かってきた。

わが国の第二の創業ブームを実現するためには、スタートアップの起業加速と、既存大企業によるオープンイノベーションの推進を通じてスタートアップを生み育てるエコシステムの創出が必要なのだ。

政府は、5年後の2027年には10兆円規模の投資額を目標とし、スタートアップを10万社、ユニコーンを100社創出することを目指している。将来的に、日本をアジア最大のスタートアップハブとして世界有数のスタートアップ集積地としたい考えだ。

出典:「スタートアップ育成5か年計画ロードマップ」案https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/bunkakai/suikusei_dai3/siryou2.pdf

計画を推進していくための大きな三本柱

スタートアップ育成5か年計画を実現していくために、下記に挙げる大きな3本柱の取り組みを一体として推進していく。

第1の柱:スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築
主に12の取り組みを実行していく予定である。

  1. メンターによる支援事業の拡大・横展開
  2.  海外における起業家育成の拠点の創設(出島事業)
  3. 米国大学の日本向け起業家育成プログラムの創設などを含む、アントレプレナー教育の強化
  4. 1大学1イグジット運動
  5. 大学・小中高生でのスタートアップ創出に向けた支援
  6. 高等専門学校における起業家教育の強化
  7. グローバルスタートアップキャンパス構想
  8. スタートアップ・大学における知的財産戦略
  9.  研究分野の担い手の拡大
  10. 海外起業家・投資家の誘致拡大
  11. 再チャレンジを支援する環境の整備
  12.  国内の起業家コミュニティの形成促進

第2の柱:スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化
ストックオプションの環境整備や公共調達の拡大等を進めるにあたり、主に28の取り組みを実行していく予定である。

  1. 中小企業基盤整備機構のベンチャーキャピタルへの出資機能の強化
  2. 産業革新投資機構の出資機能の強化
  3. 官民ファンド等の出資機能の強化
  4. 新エネルギー・産業技術総合開発機構による研究開発型スタートアップへの支援策の強化
  5. 日本医療研究開発機構による創薬ベンチャーへの支援強化
  6. 海外先進エコシステムとの接続強化
  7. スタートアップへの投資を促すための措置
  8. 個人からベンチャーキャピタルへの投資促進
  9. ストックオプションの環境整備
  10. RSU(Restricted Stock Unit:事後交付型譲渡制限付株式)の活用に向けた環境整備
  11. 株式投資型クラウドファンディングの活用に向けた環境整備
  12. SBIR(Small Business Innovation Research)制度の抜本見直しと公共調達の促進
  13. 経営者の個人保証を不要にする制度の見直し
  14. IPO プロセスの整備
  15. SPAC(特別買収目的会社)の検討
  16. 未上場株のセカンダリーマーケットの整備
  17. 特定投資家私募制度の見直し
  18. 海外進出を促すための出国税等に関する税制上の措置
  19. Web3.0 に関する環境整備
  20. 事業成長担保権の創設
  21. 個人金融資産及びGPIF等の長期運用資金のベンチャー投資への循環
  22. 銀行等によるスタートアップへの融資促進
  23. 社会的起業のエコシステムの整備とインパクト投資の推進
  24. 海外スタートアップの呼び込み、国内スタートアップ海外展開の強化
  25. 海外の投資家やベンチャーキャピタルを呼び込むための環境整備
  26. 地方におけるスタートアップ創出の強化
  27. 福島でのスタートアップ創出の支援
  28. 2025年大阪・関西万博でのスタートアップの活用

第3の柱:オープンイノベーションの推進
主に9つの取り組みを実行していく予定である。

  1. オープンイノベーションを促すための税制措置等の在り方
  2. 公募増資ルールの見直し
  3. 事業再構築のための私的整理法制の整備
  4. スタートアップへの円滑な労働移動
  5. 組織再編の更なる加速に向けた検討
  6. M&A を促進するための国際会計基準(IFRS)の任意適用の拡大
  7. スタートアップ・エコシステムの全体像把握のためのデータの収集・整理
  8. 公共サービスやインフラに関するデータのオープン化の推進
  9. 大企業とスタートアップのネットワーク強化

また農業や医療などディープテックの個別分野に特化した、起業家教育・スタートアップ創出支援に関する取り組みの強化も行っていく予定だ。

医療・ヘルスケア業界では創薬ベンチャー育成強化へ

スタートアップ育成5か年計画を推進するための3本柱を実現へ向けた主な取り組みの中で、医療・ヘルスケアに関連する施策は以下である。

  1. メンターによる若手人材の育成
  2. ベンチャーへの支援強化
  3. 世界最先端のエコシステムと我が国の創薬スタートアップのエコシステムとの接続を強化

3つの施策についてそれぞれ紹介する。

メンターによる若手人材の育成

出典:「スタートアップ育成5か年計画ロードマップ」案https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/bunkakai/suikusei_dai3/siryou2.pdf

2024〜2027年度にかけて、メンターによる若手人材の育成を行い、スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築を目指す。

これまでIT分野では、情報処理推進機構により産業界・学界のトップランナーがメンターとして才能ある人材を発掘(採択審査)し、プロジェクト指導を実施。これまで 300 人が起業または事業化を達成した。
これを大規模に拡大・横展開するなかで、医療・ヘルスケア業界においては2024年度を目標に、若手人材育成の主体を国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が担うことを検討している。

日本医療研究開発機構は、2015年に発足し「成果を一刻も早く実現化し、患者さんやご家族の元にお届けすること」を目指し、医療分野における基礎から実用化まで一貫した研究開発の推進と成果の実用化に向けた取り組みを行っている機構だ。
2027年度には年間500人を目標に、メンターによる若手人材の発掘・育成を行っていく。

創薬ベンチャー確立のエコシステムを強化

現在、創薬ベンチャーに対し支援対象を感染症関連に限定した形で、認定ベンチャーキャピタルによる実用化開発費に相当する額の1/3 出資を条件に、 残りの 2/3 を日本医療研究開発機構が補助をしている。

近年の新薬の大半は創薬ベンチャーが開発したものが多く、新型コロナウイルスに際していち早くワクチン開発に成功したのも創薬ベンチャーだ。
新薬の開発には多額の資金を要するが、これまでの創薬ベンチャーエコシステムでは欧米などと比較しても、必要な開発資金を円滑に確保しづらいのが現状である。

そこで、大規模な開発資金の供給源不足を解消するために、創薬に特化したハンズオンによる事業サポートを行うベンチャーキャピタルを認定。認定ベンチャーキャピタルによる出資を要件に、非臨床試験、第1相臨床試験、第2相臨床試験もしくは検索的臨床試験の開発段階にある創業ベンチャーが実施する実用化開発支援を、日本医療研究開発機構が行うとした。

今後「スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化」として、2023年度より支援対象を感染症関連以外で資金調達が困難な創薬分野にも広げることにした。

まずは、10 年間分 3,000 億円(年間 300 億円)の基金の積み増しを行う。この際、スタートアップの負担を考え、手続きの簡素化に努める予定である。

新型コロナウイルス感染症拡大にあたって、令和2年度から幾度となく補正予算を重ね、国内ワクチン開発支援として、5,139億円の基金が造成された。国産ワクチン開発企業5社(KMバイオロジクス、塩野義製薬、第一三共、アンジェス等)の大規模臨床試験等の実施費用について支援してきているが、1社は開発中止、4社も開発には至っていない。

多額の予算が組まれたものの、非常に厳しい結果となってしまい、各企業の研究開発能力に対して懸念も叫ばれているが、今後のエコシステム強化が期待されるところだ。

世界最先端のエコシステムと国内の創薬スタートアップのエコシステムとの接続を強化

ボストンでは、バイオ分野のベンチャーキャピタルが高度な専門性を有するキャピタリストをそろえ、スタートアップ創出・育成モデルの進化によりバイオスタートアップの早期エグジッドを実現している。

日本でも今後、世界最先端のエコシステムと我が国の創薬スタートアップのエコシステムとの接続を強化していくことで、国内ベンチャーにおいても早期のエグジッド実現をしやすくなることを期待したい。

まとめ

岸田内閣が発表した「スタートアップ計画」をきっかけに、医療・ヘルスケア業界では、感染症関連以外で資金調達が困難な創薬分野にも円滑に資金を確保できる環境の整備が期待される。

多額な資金を要する新薬開発であるが、今回の計画でより一層創薬ベンチャーが参入しやすくなり、感染症関連以外においてもさまざまな分野で新薬開発が円滑に行われるようになるだろう。

今後、創薬分野における専門性の高いキャピタリストをそろえたベンチャーキャピタルの認定や、創薬スタートアップの継続的なフォローアップによるエコシステム強化によって、医療・ヘルスケア業界がどのように変化するのか目が離せない。

参考

スタートアップ育成5か年計画(案)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/bunkakai/suikusei_dai3/siryou1.pdf

「スタートアップ育成5か年計画ロードマップ」案https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/bunkakai/suikusei_dai3/siryou2.pdf

 

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