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日本の社会保障はどう変わるのか? ー全世代型社会保障構築会議から読み解く

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2023.02.08

医療機関DX

行政 / 自治体

本記事では、内閣官房が12回にわたって開催してきた全世代型社会保障構築会議の報告書についてまとめる。報告書には、全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための、基本的考え方と各分野での改革の方向性が示されている。医療・介護分野においてはどのような方針が示されたのだろうか。

全世代型社会保障構築会議とは

日本は今、本格的な「少子高齢化・人口減少時代」という歴史的転換点を迎えている。平成29年版高齢社会白書によれば、15歳から64歳の労働人口が、65歳以上の高齢者を支える割合は、2020年には2人で1人、2040年には1.5人で1人を支えるまでになることが推計されている。

全世代型社会保障構築会議はこうした状況を踏まえ、「日本の目指すべき社会の姿を描き、取り組むべき社会保障政策を明確化する」ために設置されたものである。2022年1月、清家篤日本赤十字社社長(慶應義塾学事顧問)を座長とする18名の有識者が各界から集まった。開催が決定されて以来、2022年の12月までに12回の会議が開催されている。

今回の報告書によると、会議の目指している方向性は、以下の3点にまとめることが出来る。

  • 「少子化・人口減少」の流れを変える
  • これからも続く「超高齢社会」に備える
  • 「地域の支え合い」を強める

まさに現代社会で問題となっている少子化に歯止めをかけ、労働人口を確保し、地域包括ケアシステム構築を確実なものにしていくための政策の具体案が示された形となった。

この記事では報告書中の「医療・介護制度における改革」に焦点を当て、その中身を詳しく読み解いてみる。

医療・介護分野における改革内容

この報告書の「医療・介護制度における改革」は、(1) 基本的方向、(2) 取り組むべき課題、(3) 今後の改革の工程、の3つのセクションから構成されている。

(1)の基本的方向には、

『全ての世代で、増加する医療費を公平に支え合う仕組みを早急に構築』

『医療の機能分化と連携の更なる推進』

『医療・介護人材の確保・育成、働き方改革』

『デジタル技術の著しい進展に対応した医療・介護サービス提供体制の改革』

等が示されている。

こうした方向性を踏まえ、改革しようとする内容は、次の4つに大別できる。

  • 医療保険制度
  • 医療提供体制
  • 介護
  • 医療介護分野等におけるDXの推進

これら4点は、本報告書において日本が改革すべき課題点としてはっきりと認識されている形となった。今後これらの内容について改革が加えられていくことが予想されるわけだが、どのような見直しがなされていくことになるのかを見ていこう。

現状の課題

まず、医療保険制度における課題解決は次のような点が挙げられている。

後期高齢者医療制度の保険料負担の在り方の見直し

後期高齢者の自己負担割合は令和4年10月1日から変更があった。一定以上の所得がある人は2割になったのだ。加えて、現役と変わらない所得がある人は3割になっている。このように既に実施されてきたとおり、最初一律一割の負担とされてきた後期高齢者医療保険の自己負担割合は、能力に応じた負担割合に変えるべきであると書かれている。

また更に『賦課限度額及び所得割率の引上げを行いつつ』、『低所得者層の保険料負担が増加しないよう配慮すべき』としている。すなわち高所得の後期高齢者の国民健康保険税負担が次第に大きくなっていくことが予想される。

被用者保険者間の格差是正

国の前期高齢者給付費は、協会けんぽと各健康保険組合では財政状態に格差があるため、加入者数に応じた給付調整が行われている。報告書では前期高齢者(65歳〜74歳)の加入者数に応じた調整に加え、報酬水準に応じた調整を導入するべきであるとしている。

被用者保険の違いで保険料率に格差がでている現状の是正を図るとして、『既存の支援を見直すとともに、更なる支援を行う』こととしている。

また、『その際、企業の賃上げ努力を促進する形での支援を行うべき』であるとし、賃上げ措置をインセンティブとする支援を行うことを示唆している。

かかりつけ医機能を発揮するための制度整備

コロナ禍では、普段受診している病院で受診が断られる事態になった。こうして機能不全が明らかになったかかりつけ医制度だが、そもそもは比較的軽い症状の患者まで大きな病院に受診が集中し、医療費がかかりすぎることも問題になっていた。

当報告書において、かかりつけ医機能が発揮される制度整備は目玉の一つとなった。1985年当時の厚生省で「家庭医」が議論されてきて以来の課題となってきた「かかりつけ医」は、日本医師会の意見が強く、厚生省が折れた形となり、なかなか制度化できなかった経緯がある。つまりどの医療機関がかかりつけ医なのか、はっきりしない状態はいまだに続いているのが現状だ。

報告書では、『かかりつけ医機能の定義については、現行の医療法施行規則 13に規定されている「身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談等を行う機能」をベースに検討すべきである。』として、どの医療機関をかかりつけ医にするのかについて、希望する医療機関と患者が合意の上で始める「手上げ方式」を提案している。

こうして報告書は提出されたものの、かかりつけ医機能の制度整備について、全世代型社会保障構築会議と日本医師会、厚生労働省の足並みはそろったとはいえない。日本医師会は制度化そのものに反対している。厚生労働省では登録や認定制度は設けず、医師が継続診察が必要な患者を限定する案を出し、これをベースに法整備をしようとしている。

この報告書でもかかりつけ医制度整備の項目の最後では、『国民一人ひとりのニーズを満たすかかりつけ医機能が実現するまでには、各医療機関、各地域の取組が必要』であるとし、『今回の制度整備はそれに向けた第一歩と捉えるべきである』としめくくった。

かかりつけ医に関しては制度整備どころかようやく議論のスタート地点に立ったというような表現となっている。

医療法人改革の推進

医療費が不足していく問題を解決していくにあたり、もう一つ明らかにしていく必要があるのが、医療機関の経営状況である。医療費削減によって経営が苦しくなる医療機関があるというのであれば手立てを考えなければならない。そこで医療法人改革の筆頭に挙げられているのが医療法人の経営情報のデータベース化だ。

報告書では医療提供体制の改革の一つとして『経営情報のデータベースの構築などの』と前置きした上で医療法人改革が挙げられている。

国民に対して医療機関が置かれている現状を理解してもらうとともに、医療機関の経営分析を行い、医療法人の経営上の支援策や、医療従事者の処遇の適正化につなげようというものである。

医療・介護間での情報連携

医療業界での情報処理は電子カルテの導入が進み、さらにそれがクラウド化することによって新たなステージを迎えた。従来医療機関ごとに門外不出の個人情報として保有していたカルテによる患者情報は、連携する医療機関と介護事業所の間で共有するべき時代となったのだ。

報告書では『医療・介護分野の関連データの積極的な利活用の推進』として『PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)など、マイナンバー制度の下で公共機関の保有する社会保障関係のデータと、関係事業者の保有する各種のデータの連携を推進すること』が挙げられている。

今後は、個人情報を保護しつつ、各医療機関や介護施設間で患者のデータが共有され、より一層連携が深まることが期待される。

早急に検討が進められる項目

2023年中にも取り掛からねばならない、早急に検討が進められる項目として、報告書では次の項目が挙げられている。

かかりつけ医機能など更なる医療制度改革

かかりつけ医機能の制度整備の実施に向けた具体化、地域医療構想の実現に向けた更なる取組、診療報酬・薬価改定に向けた検討

山積みとなった課題のうち早急に行わなければならないとされているのがこの3点だ。かかりつけ医については来年度本格的に法整備が検討されている。

地域医療構想については医療法人改革の一部である地域医療連携推進法人制度も視野に入れた中で、より一層医療機関再編が進んでいくことが予想される。

また、2024年は診療報酬改定の年になるが、それに向けての検討もこれまでになく厳しいものになっていくことが予想される。

医療・介護等 DX の推進、介護職員の働く環境の改善

DXで医療機関と介護事業所の情報連携を進めることが優先課題とされている。さらには、それによる人員不足に悩む介護業界の働き方改革も急務とされている。

経営的に苦しい事業所が多いとされる介護サービス事業の経営を改善する各施策、ICT・ロボットの活用等による働き方改革での生産性向上が挙げられる。行政の側もより一層のデジタル化が求められ、手続きの簡素化等が進むことが予想される。

次期介護保険事業計画に向けた具体的な改革

2024年度に開始される第9期介護保険事業計画にむけた具体的な改革に取り組まなければならない。論点としては地域包括ケアシステムのさらなる深化・推進、介護人材の確保、介護現場の生産性向上、介護保険の給付と負担などが挙げられている。

2025年度までに取り組むべき項目

2025年までに取り組むべき項目として、報告書では次の項目が挙げられている。

医療保険および介護保険における負担能力に応じた負担と給付の内容の不断の見直し

医療保険および介護保険の負担の見直しについては、収入に応じた分の負担が求められていく傾向が今後続いていくことが想定される。これらは2024年、2025年と引き続き段階的に切れ目なく行われていくことを報告書で簡単に述べている。

本格的な人口減少期に向けた地域医療構想の見直し、実効性の確保

人口減少期は2024年、2025年にかけていよいよ本格化する。地域医療構想はその実効性を確保するため、2024年からの第8次医療計画を控えた2023年に各医療機関の対応方針の策定や検証・見直しが行われていく。

地域包括ケアの実現に向けた提供体制の整備と効率化・連携強化

地域包括ケアシステムは各地でさまざまな取り組みがなされているが、医療・介護サービスの提供体制は医療法人改革による施設間の連携強化やDXによる情報連携によって、さらなる整備と効率化を推進していくものとしている。

全世代型社会保障構築会議報告書のまとめ

団塊の世代のほとんどが後期高齢者になるのが2025年とされ、これまで日本ではその対策を行ってきた。しかし、高齢者を支える側の人口が減少しては元も子もないことが明らかになり、高齢者だけではなく、子ども、子育て世代、現役世代も含めた「全世代型」社会保障の構築が必要となって今にいたっている。

今回ようやく最終的な報告書がまとまり、全世代型社会保障の構築が動き出そうとしているが、既に始まっている人員不足や、燃料費、物価の高騰、円安の影響などがあり、改革は簡単ではないことが予想される。

国が目指してきた地域包括ケアシステムの理想、『安心して最後まで住み慣れた場所で暮らせる』未来を構築するために、今、自分のビジネス上で何ができるのかを考えることが必要となるだろう。

参考

全世代型社会保障構築会議 報告書~全世代で支え合い、人口減少・超高齢社会の課題を克服する~(令和4年12月16日 内閣官房)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/zensedai_hosyo/dai12/siryou1.pdf

平成29年版高齢社会白書概要版第1章 高齢化の状況(第1節)(内閣府)
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/gaiyou/s1_1.html

 

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