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「新経済・財政再生計画 改革工程表2022」から見る医療分野の改革計画

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2023.03.05

医療機関DX

保険

行政 / 自治体

政府の経済財政諮問会議は2022年12月22日、新経済・財政再生計画(財政健全化計画)の改革工程表2022を取りまとめた。医療関連では、1人当たり医療費の地域差縮減が課題に挙げられている。

今回は、「新経済・財政再生計画 改革工程表2022」から見る医療分野の改革計画について解説する。そして、今後は医療費の地域格差の解消に加え、医療・介護分野のDXの一層の推進を図ることが必要と考えられるが、その他の課題についても取り上げて解説していく。

「改革工程表2022」とは何か

改革工程表は、新経済・財政再生計画に掲げられた主要分野ごとの重要課題への対応とKPI(Key Performance Indicator:「重要業績評価指標」のこと)、それぞれの政策目標とのつながりを明示することにより、目指す成果への道筋を示すものである。

「改革工程表2022」は、(1)改革工程表2021の各施策の推進状況を点検・評価、(2)「経済財政運営と改革の基本方針2022」、いわゆる、「骨太方針2022」(令和4年6月7日閣議決定)を踏まえ、具体的取り組みと実施時期を示したものである。

各階層のKPIは、第1階層として「進捗状況の測定指標」(アウトプット指標)、第2階層として「成果の測定指標」(アウトカム指標)と定めている。

「改革工程表2022」からみる医療費の地域格差

「改革工程表2022」では、一人当たり介護費の地域差縮減や国保の法定外繰入等の額の減少は進展したが、一人当たり医療費の地域差縮減は進捗が見られない、として問題視している。

具体的には、2014年度に「地域差指数」が「1」を超す、つまり、年齢調整後1人当たり医療費が全国平均よりも高かったのは、22都道府県であった。これらの「地域差指数-1」の平均値は「0.073」で、2023年度時点での半減が目標だったが、2019年度は「0.077」と悪化していた。また、北海道と西日本が高く、東日本が低い傾向は続いている。

つまり、医療費が高い傾向にある地域に大きな変化はなく、それらの地域と全国平均との差がさらに広がっているということである。

引用) 新経済・財政再生計画 改革工程表 2022  資料3-2 p6
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2022/1222/shiryo_03-2.pdf

医療費の地域格差についての取り組みは、工程表では地域の実情を踏まえた取組の推進(医療)として、地域別の取組や成果について進捗管理・見える化を行うとともに、進捗の遅れている地域の要因を分析し、保険者機能の一層の強化を含め、さらなる対応の検討を行うことが挙げられている。

今後求められる医療分野の改革とは

次に、医療費の地域格差縮減の他に、医療改革の分野で政策目標として挙げられている点について説明する。

医療・介護分野DXの推進

既存項目の組換とともに、全国医療情報プラットフォームの創設、電子カルテ情報の標準化等、診療報酬改定DX等の新規項目を追加し、医療法人・介護サービス事業者の経営状況に関するデータベースを整備し、政策決定等に活用することが目標に掲げられている。

これは医療・介護分野でのDXを通じたサービスの効率化・質の向上を実現することにより、国民の保健医療・介護の向上を図ろうという観点からである。

しかし、「医療DXを進めたい」との思いと「社会基盤の整備スピード」との間のギャップをいかにして縮めるのかという問題は依然として存在する。また、中央で定めた基準を地方で一律適用することで、地方が疲弊してしまう点にどう配慮するのか、という課題は残るため、対策が必要であろう。

さらに、人口減少や少子高齢化に伴う医療需要の変化、医師等の不足を受け、地域医療を支える公立病院の経営は、依然として厳しい状況である。今後、医師の時間外労働規制への対応も迫られるなど、さらに厳しい状況が見込まれる。

こうした課題を踏まえ、持続可能な地域医療提供体制を確保するため、地域医療を支える公立病院の経営強化に向けた新たなガイドラインの策定が必要である。

そして、精神科医療についても他の疾患・事業との横串を刺した検討が求められ、精神科のみ社会・援護局が所掌している点も改善すべきだと考えられる。

オンライン資格確認の推進とマイナンバーカードと健康保険証の一体化の加速について

オンライン資格確認の「進捗状況の測定指標」(アウトプット指標)は、「2023年4月に導入が義務である全ての保険医療機関等で導入」だ。

この目標についても、保険証が廃止された場合には、下記のような課題が生じることが予想される。

・マイナンバーが付されていない新生児はどのように医療機関を受診するのか
・インターネット環境が十分でない、離島や山村などはどのような対応をとるのか
・さらに高齢医師の1人で運営するクリニックなど、どのような対応をとるのか

これらの課題についても対策が必要だ。

かかりつけ医機能の発揮

全世代型社会保障構築会議報告書(令和4年12月16日)などに基づき、かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行うことが挙げられている。

地域包括診療料等の対象疾患の見直し等、かかりつけ医機能に係る2022年度診療報酬改定の対応について、その影響の検証等を踏まえ、2024年度診療報酬改定において必要な見直しを検討するとされている。 《所管省庁:厚生労働省》

そして、「成果の測定指標」(アウトカム指標)は、「大病院受診者のうち、紹介状なしで受診したものの割合」とされている。

しかし、こちらについては対象医療機関をどう考えるかといった課題がある。それは、診療所のみならず、病院も対象になる可能性があり、その範囲をどう策定するのかという問題もはらむということだ。

さらに、以下のような課題も残る。

・各機能について質をどう担保するのか、つまりどのレベルに達してれば「機能を持つ」と判断するのか
・各機能について「複数医療機関の連携」で持つ場合をどう考えるのか、都道府県が「かかりつけ医機能を持つ」として公表する医療機関の基準をどう考えるのか(設定された機能のすべてを持つ医療機関のみなのか)
・機能の一部しか持たない医療機関をどのように扱うのか
・かかりつけ医の質を担保するためにどうするのか
・「公的機関による認証」を導入するのかどうか
・「かかりつけ医機能を持つ医師・医療機関」と「そうでない医療機関」との差別化をどう考えるのか
・インセンティブ(診療報酬など)についてはどのように取り扱うのか

これらについても、対策が必要だ。

介護分野の給付と負担の見直しも

下記については、介護保険部会の意見等を踏まえ、見直しの検討を進めることが挙げられている。

・ケアプラン作成に関する給付の在り方
・多床室室料に関する給付の在り方
・軽度者(要介護1・2の者)への生活援助サービスに関する給付の在り方
・介護保険における「現役並み所得」・「一定以上所得」の判断基準の見直し
・介護保険の1号保険料負担の在り方

こちらについては、次期介護保険事業計画に向けた保険者の準備期間等を確保するため、つまり2023年夏まで(骨太方針2023まで)に結論を得る、とされており、事実上の「先送り」となった。

営利法人や医療法人では加算取得が低調のようであり、背景・理由をより詳細に見たうえで手当てを行う必要がある。また、加算取得促進のためにも「届け出書類等の削減」「様式の統一化」、そして「オンライン届け出」などをさらに進めていくべきである。さらに、「加算が人材の確保・定着にどう影響しているのか」「給与増の要因を加算・年齢・勤続年数・事業所規模・地域などに分解し、何が給与増に最も効果的なのか」などを分析・検討する時期に来ていると考えられる。

健康保険の種類による医療格差

医療の格差に関する課題は、健康保険の観点からも考えることができる。

日本では全員が何らかの公的医療保険に加入している。企業に勤めている人は勤務先の健康保険(全国健康保険協会など)、国家・地方公務員や私学教職員は共済組合、船舶の船員は船員保険、75歳以上の人や65〜74歳で一定の障害を持っている人は、後期高齢者(長寿)医療制度、そして、それ以外の自営業者や退職者などは国民健康保険に加入している。

国民健康保険の加入率は、2020年9月末の時点では、27.1%であった。
つまり、4人に1人は国民健康保険に入っていることになる。

会社員や公務員が勤務先で加入している被用者保険では、その保険料の半分を勤務先が負担してくれる。一方で、国民健康保険では、保険料の全額を加入者が負担することになる。そのため、保険料が高いと感じる人も多いだろう。

そして、国民健康保険の負担がさらに増える可能性がある、というニュースが新たに出てきた。昨年6月に閣議決定された『骨太の方針2022』に「生活保護受給者の国保及び後期高齢者医療制度への加入を含めた医療扶助の在り方の検討を深める」という記載があるのだ。これは、現在国庫で負担している生活保護受給者の医療費を、国保料に移行させることを意味する。生活保護費負担金は、全体で約3.7兆円(令和4年度)であり、その半分を占めているのが医療扶助である。

現状国庫負担でまかなっているものを国保負担に移行する目的は、国庫負担を抑制するためだと考えられる。しかし、国民健康保険加入者に負担を押し付けるのが果たして適正と言えるかどうかは疑問だ。例えば東京都では国民健康保険加入者の約40%が年金生活者等の無職者なのである。生活保護者が保険料を負担できるのかという課題も残る。

健康保険の種類によって、保険料が変わってくるということは、世帯年収などに応じて受けられる医療に格差が生じることにつながりかねない。

国庫からの支援を増強するなどの対策が求められるのではないだろうか。

参考

(1)  経済・財政一体改革推進委員会
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/index.html#

(2) 新経済・財政再生計画 改革工程表 2022 
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/report_221222_2.pdf

(3) 第8次医療計画及び地域医療構想に関する状況
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000989555.pdf

(4) 全世代型社会保障構築会議 報告書
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001025603.pdf

(5) e-Stat 統計で見る日本 国民健康保険実態調査 令和2年度 調査結果の概要(エクセルデータ表1)https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450397&tstat=000001162393&cycle=8&tclass1=000001162401&tclass2val=0

(6) 経済財政運営と改革の基本方針2022 について
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2022/2022_basicpolicies_ja.pdf

(7) 生活保護制度の現状について
https://www.mhlw.go.jp/content/12002000/000977977.pdf

(8) ◆3.国民健康保険制度の現状 東京都福祉保健局
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kokuho/aramashi/seido/seido03.html

 

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