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危機的状況、介護サービスの現状

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2023.03.17

在宅医療 / 介護

2023年2月1日に行われた社会保障審議会 介護給付費分科会(以下、「分科会」という)において、厚生労働省は介護サービスの最新の経営状況を示す資料を公開した。収支差率が前年比マイナスとなる介護サービスが多く、危機的な状況が明らかとなった。
今回は、最新の経営状況を示す資料を基に、介護サービスの現状について解説する。

収支差率は前年比▲0.9%、赤字割合が4割を超える事業も

分科会では「介護事業経営概況調査」の結果が示された。これは、介護保険制度の改正及び介護報酬の改定に必要な基礎資料を得る目的で行われる調査である。前回の報酬改定の前後の2年分の収支状況を調査することで、前回の報酬改定が、介護事業経営に与えた影響を確認する。

結果として、2021年度の全サービス平均の収支差率は3.0%となり、前年度に比べて、収支差率は0.9%悪化した。2021年度の介護報酬改定率は+0.7%であり、プラス改定であったにも関わらず、収支差率は悪化した。多くの介護サービスで、収入に対する給与費の割合が増加したことも収支差率悪化の背景にあると考えられる。

2023年2月には独立行政法人福祉医療機構からも、各介護サービスにおける経営分析参考指標も公開された。経営分析参考指標によると、赤字施設の割合も増えている。例えば、通所介護では2021年度の赤字施設の割合は46.5%であり、前年度に比べて赤字施設の割合が4.6%増加した。

2021年度決算では、昨今の物価高騰の影響が反映されていない。物価高騰によるコスト増を踏まえると、介護サービスの経営状況は、さらに悪化していると予想され、まさに危機的な経営状況にあると言える。

参考:独立行政法人福祉医療機構 経営分析参考指標・経営診断
https://www.wam.go.jp/hp/guide-keiei-keieiqa-tabid-1976/

収支差率の前年増減ランキング

「介護事業経営概況調査」の結果を基に収支差率の前年増減ランキングを作成した。1位の夜間対応型訪問介護及び、23位(最下位)の介護療養型医療施設は、集計施設・事業所数が少なく、集計結果に個々のデータが大きく影響していると考えられるため注意が必要である。参考数値として欲しい。

ランキングを見ると、全23種類の介護サービスのうち17種類(全体の73.9%)が前年増減マイナスとなっている。多くの介護サービスで経営状況が悪化したことがわかる。その中でも通所系サービスの経営悪化が目立つ。収支差率の前年増減は、通所リハビリテーションで▲1.1%、通所介護で▲2.8%、認知症対応型通所介護で▲4.9%であり、いずれも全体サービス平均以上に悪化している。通所系サービスはコロナ禍の影響も大きく受けた。通所系サービスは、利用者が自宅から介護事業所に通い、集団で介護サービスを受ける形態である。クラスターの発生により営業中止をした事業所や、感染を懸念した利用控えが発生したことも影響している。

収支差率がプラスとなった介護サービスの中では、居宅介護支援が印象的だ。居宅介護支援の収支差率は前年増減で+1.5%であり、経営状況が好転した。2021年度の介護報酬改定において、居宅介護支援は優遇されており、その効果が反映されたものと考えられる。これまで、居宅介護支援は赤字でも仕方のない事業と言われていたが、基本報酬アップや、利用者を多く受け持った場合の報酬の逓減性の緩和が行われ、なんとか経営が成り立つ水準にまでに改善してきている。

参考:第36回社会保障審議会介護給付費分科会介護事業経営調査委員会 
【資料1】令和4年度介護事業経営概況調査結果の概要(案)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001048051.pdf

サービス名に「※」のあるサービスについては、集計施設・事業所数が少なく、集計結果に個々のデータが大きく影響していると考えられる。参考数値として公表している。

収支差率のランキング

2021年度決算における「収支差率のランキング」は以下の通りである。

ランキング上位には、訪問系のサービス、複合型のサービスがランクインしている。訪問系のサービスの収支差率は、定期巡回・随時対応型訪問介護看護で8.2%、訪問看護で7.6%、訪問介護で6.1%である。複合型サービスの収支差率は、小規模多機能型居宅介護で4.7%、看護小規模多機能型居宅介護で4.6%である。いずれも全サービス平均を1%以上、上回っている。地域包括ケアシステム実現に向けて、国としても訪問系サービス、複合型サービスを推進している。国が推進するサービスほど、良い経営環境にあることがわかる。

同様に、2018年度の介護報酬改定により新設された介護医療院も利益率が高い。新設された介護サービスの導入期ということもあり、比較的優遇された経営環境にあると考えられる。

一方で、ランキング下位に目を向けると、介護療養型医療施設の利益率は0.6%であり、非常に厳しい経営環境にあることがわかる。介護療養型医療施設は、2024年3月末に廃止が決まっており、介護医療院等への転換が求められている。2021年度の介護報酬改定では、基本報酬の大幅ダウンが行われ、移行計画の提出をするように促された。移行計画を提出しない場合、報酬は10%の減算となる厳しい措置も行われている。

参考:第36回社会保障審議会介護給付費分科会介護事業経営調査委員会 
【資料1】令和4年度介護事業経営概況調査結果の概要(案)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001048051.pdf

サービス名に「※」のあるサービスについては、集計施設・事業所数が少なく、集計結果に個々のデータが大きく影響していると考えられる。参考数値として公表している。

最後に~介護サービスの経営状況からわかること~

最新の介護サービスの経営状況から、収支差率は悪化しており、赤字施設の割合も増えていることがわかった。総じて介護サービスは厳しい経営環境に置かれている。今後も、状況が好転するとは考えにくく、介護サービスの運営者は継続して難しい舵取りを迫られる。

しかし、全ての介護サービスの経営状況が悪いわけではない。国が推進していく意向を示しているサービスは、収支差率の改善が見られたり、比較的高い収支差率を示したりしている。

厳しい環境の中でも活路を見出していくためには、行政の動向や今後の介護のあるべき姿をしっかりと見据えて、介護サービスの在り方を見直していくことが必要となる。

参考

(1)第36回社会保障審議会介護給付費分科会介護事業経営調査委員会 【資料1】令和4年度介護事業経営概況調査結果の概要(案)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001048051.pdf

(2)第36回社会保障審議会介護給付費分科会介護事業経営調査委員会 【資料2】令和4年度介護事業経営概況調査結果(案)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001048053.pdf

(3)独立行政法人福祉医療機構 経営分析参考指標・経営診断
https://www.wam.go.jp/hp/guide-keiei-keieiqa-tabid-1976/

 

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